2026年8月12日
院長コラム
こんにちは、板橋駅前さとう消化器・内視鏡クリニック院長の佐藤です。
「大腸内視鏡検査」と聞くと、「お腹の調子は悪くないから大丈夫」「痛そうだから受けたくない」と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし近年、大腸内視鏡検査の重要性を裏付ける質の高い研究が次々と報告されています。今回は、大腸癌に関する最新のエビデンスをもとに「大腸内視鏡は何歳から必要なのか」「日々の食生活とどう関係するのか」「検診は本当に効果があるのか」という3つの観点から、できるだけ分かりやすく解説します。
大腸内視鏡は何歳から必要?
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は2021年、大腸癌検診に関する指針をJAMA誌(世界でトップレベルの米国医師会雑誌)に発表しました。
USPSTFは、医師や研究者などの専門家で構成される独立した委員会で、特定の薬や検査に利害関係のない立場から「この検査は本当に受ける価値があるのか」を科学的根拠に基づいて評価しています。具体的には、「もし検診を45歳から始めたら」「50歳から始めたら」といった、さまざまな開始年齢のパターンを仮想的に計算し、「がんで亡くなる人を減らせる効果」と「検査に伴う負担」のバランスが最も良い年齢はどこかを検討しました。
その結果、推奨は次のようにまとめられています。
50〜75歳:全員に検診を推奨(推奨度A、最も強い推奨)
45〜49歳:検診を推奨(推奨度B)
76〜85歳:一律の推奨ではなく、健康状態や過去の検診歴を踏まえて医師が個別に検討(推奨度C)。特に、これまで一度も検診を受けたことがない方ほど、検診による恩恵が大きいとされています
85歳以降:検診の中止を推奨
推奨度は、根拠の強さと得られるメリットの大きさを表すものです。50〜75歳が最も強い「A」、45〜49歳が「B」とされているのは、年齢が上がるほど大腸癌のリスクそのものが高くなり、検診による恩恵がより大きくなるためです。
以前は「大腸癌検診は50歳から」というのが一般的な認識でしたが、現在は45歳からの開始が推奨される時代になっています。この見直しの背景には、実際のデータとして50歳未満の若い世代で大腸癌にかかる方が増えているという傾向があり、開始年齢を引き下げることでより多くの命を救える可能性がシミュレーション上で示されたことがあります。「まだ若いから関係ない」ではなく、40代のうちから検診を意識していただきたいと思います。
食生活と大腸癌の関係
大腸癌のリスクは、遺伝や年齢だけでなく、日々の食生活とも深く関わっています。2022年にBMJ誌(世界でトップクラスの総合医学雑誌)に発表された研究では、米国の3つの大規模な追跡調査(合計で20年以上にわたるデータ)をもとに、「超加工食品」の摂取量と大腸癌発症の関係が分析されました。超加工食品とは、インスタント食品や加工肉、調理済み食品、清涼飲料水など、加工度の高い食品を指します。
この研究では、24〜28年間の追跡で3,216例の大腸癌が確認されました。その結果、
男性では、超加工食品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて大腸癌のリスクが約1.3倍高く、特に「下行結腸・S状結腸」に発生する癌に限ると約1.7倍という結果でした
中でも、加工された肉・魚介類の調理済み食品や、砂糖入り飲料の摂取量が多いことが、リスク上昇と関連していました
女性では、全体として明確な関連は見られませんでした。
すべての要因がこの結果だけで説明できるわけではありませんが、加工食品に偏った食生活を見直すことは、大腸の健康を守るうえで意味のある一歩と言えるでしょう。
内視鏡検診は本当に効果があるのか
「検診を受けたところで、本当に癌を防げるのか」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。この問いに答える大規模な臨床試験が、ヨーロッパを中心に行われたNordICC試験です。
どんな試験だったのか
対象となったのは、ポーランド・ノルウェー・スウェーデン・オランダに住む55〜64歳の方、約8万5千人です。この年代は大腸癌のリスクが上がってくる世代にあたります。
研究チームは対象者をくじ引きのようにランダムに2つのグループに分けました。
グループA(検診案内あり):「大腸内視鏡検診を受けませんか」という案内状が届き、希望すれば検診を受けられる
グループB(検診案内なし):特に案内は届かず、いつも通りの生活を続ける
このように無作為に分けることで、「もともと健康意識が高い人が検診を受けている」といった偏りが出ないよう、公平に比較できる仕組みになっています。そのうえで10年間にわたり、「その後どちらのグループで大腸癌が多く見つかったか」「大腸癌で亡くなった方はどれくらいいたか」を追跡しました。
結果はどうだったのか
①大腸癌になった人の割合
案内が届いたグループ:100人中 約1人(0.98%)
案内が届かなかったグループ:100人中 約1.2人(1.20%)
数字だけ見ると差はわずかに感じるかもしれませんが、これは「検診の案内を受け取ったグループでは、大腸癌になる人がおよそ18%少なかった」という意味になります。案内状を送っただけの結果であるため、実際に検診を受けた方に限定すればもっと効果は大きいと考えられています。
②大腸癌で亡くなった人の割合
案内が届いたグループ:0.28%
案内が届かなかったグループ:0.31%
こちらも案内を受けたグループの方がやや少ない傾向でした。
③どんな理由であれ亡くなった人の割合(全死亡率) こちらは2つのグループでほとんど差がありませんでした。
この結果から言えること
一番のポイントは、**「検診の案内を受けることで、大腸癌そのものになる人を減らせる」**ということが、質の高い比較試験によって示された点です。これは、症状が出る前の段階、つまりポリープのうちに見つけて切除できるという、大腸内視鏡検査ならではの強みを裏付けるものと言えます。死亡率の差がはっきり出なかった点については「効果がない」ということではなく、追跡期間の長さや、案内状を送っただけで実際に受けた人が全員ではなかったことなど、いくつかの理由が考えられており、今後さらに長期の追跡データが出てくることが期待されています。
2つの根拠、それぞれの役割
NordICC試験が「実際に人を対象に検診の効果を確かめた研究」だとすれば、USPSTFの指針は「世界中の研究データとコンピューター予測を総合して、専門家チームが導き出した推奨」という位置づけになります。性質の異なる2つの根拠が、どちらも「大腸内視鏡検診には意味がある」という方向を示している点が重要だと言えるでしょう。
まとめ
・大腸癌検診は40歳から始めることが推奨されています。
・加工食品に偏った食生活は大腸癌のリスクと関連する可能性があります。
・大腸内視鏡検診を受けることで、大腸癌の発症を減らせる可能性が臨床試験で示されています。
大腸癌は、早期に発見できれば内視鏡での日帰り治療が可能なケースも多い病気です。「症状がないから大丈夫」ではなく、年齢や生活習慣を見直すきっかけとして、ぜひ一度大腸内視鏡検査をご検討ください。当院では鎮静剤を使用した苦痛に配慮した内視鏡検査や、土日の検査にも対応しております。ご予約はホームページから24時間受け付けております。
参考文献
・US Preventive Services Task Force. Screening for Colorectal Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2021.
・Lo CH, et al. Ultra-processed food intake and colorectal cancer risk in the Nurses’ Health Study and Health Professionals Follow-up Study. BMJ. 2022.
・Bretthauer M, et al. Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death (NordICC trial). N Engl J Med. 2022.